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近代班 H29年度共同研究会②レポート

近代班 H29年度共同研究会②レポート

研究代表者:細川 周平
開催日時:平成29年7月22(土)・23日(日)
開催場所:国際日本文化研究センター 第5共同研究室
参加人数:21名+オブザーバー若干名
報告:
近代班のH29年度第2回共同研究会では、3名の報告者による研究報告のほか、総合討論、および今後の展開や具体的な開催予定に関する話し合いが行われた。
まず、報告1の福田裕大氏(近畿大学国際学部・准教授)による「フランス、黎明期の録音技術:レオン・スコット・ド・マルタンヴィルの業績を再検討する」では、19世紀に「フォノトグラフ(音の振動を視覚的に記録する機器)」を考案したフランス人技師、レオン・スコット・ド・マルタンヴィルに焦点が当てられた。同報告では、スコットの業績や知的背景、さらに「フォノトグラフ」制作過程における人間関係や各知的階層との関連性、当時のフランスの科学制度など、非常に多角面からの検討による見地が示された。終盤では、それまでの考察の集約として、アメリカでエジソンが開発した音響装置「フォノグラフ」の前物として捉えられてきた、「フォノトグラフ」やスコット自身の評価へのアンチテーゼが示され、聴覚文化論からの興味深い再評価が提示された。
報告2では、城一裕氏(九州大学芸術工学研究院・准教授)により「ポストデジタル以降の音を生み出す構造の構築」というタイトルで報告が行われた。音響技術においてデジタル、そしてポストデジタルといわれる各時代を経るなか、なおデジタル音響技術は着実に進歩を遂げている一方、徐々に音を生み出す構造自体に対する関心は低下しているという。このような背景のもと、城氏は現在、最終的な音の生成にデジタル音響技術を用いることなく、機械による「針の振動」・電磁気による「歯車の回転」・生物の「筋肉の収縮」という3種の物理的な手段を用いて音を生み出す構造の構築を模索している。今回は、その過程報告が行われ、メディア・テクノロジーに批評的に向き合いつつ、技術の人間化の一例としての表現のあり方を探っている城氏の新たな研究に、今後の期待が高まった。
報告3の柿沼敏江氏(京都市立芸術大学・教授)による「オノ・ヨーコと音」では、時として芸術家やジョン・レノンの妻としての顔をクローズアップされる傾向にあるオノ・ヨーコ(小野洋子)の、音楽家としての側面に焦点を当てた報告が行われた。その中で柿沼氏は、オノ・ヨーコが重視した「音」に着目し、彼女による音源・著作、そしてオノ・ヨーコの来歴を具体的に示すことによって、オノ・ヨーコの「音」感覚や様々な領域(〈アート×日常〉〈芸術×音楽〉〈言葉×音楽〉など)を越えるアーティトとしての一面など、オノ・ヨーコと「音」を巡る興味深い示唆を提示した。
最後に行われた総合討論では、19世紀の音響記録装置から21世紀のデジタル化された音の利用と創作、さらには、音・音楽をめぐる研究倫理に至るまで、多岐にわたる内容が議論の題材にあがった。そこでは各分野の研究当事者たちによる白熱したディスカッションが行われ、共同研究メンバー間の今後の議論の深化、ひいては研究の発展に期待が高まった。

以上
(光平有希)