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開催報告【大衆文化研究プロジェクト】総括シンポジウム(2022年1月21日~23日)

2022年1月21日(金)~23日(日)の3日間に渡り、機関拠点型基幹研究プロジェクト「大衆文化の通時的・国際的研究による新しい日本像の創出(略称:大衆文化研究プロジェクト)」の6年間の活動の締めくくりとなる総括シンポジウムを開催しました。

本シンポジウムは、若手研究者育成という目的から、中堅・若手の研究者がパネル企画を担い、「日本大衆文化研究の最前線―新しい日本像の創出にむけて―」と題して、4つのパネルを通して、これまでに取り組んだ大衆文化研究プロジェクト全体の検証・評価を行いました。また、シンポジウムの最後は「国際日本研究」コンソーシアムパネルとして、ヨーロッパとの対話から、「国際日本研究」の新たな展開と可能性について、考察を進めました。

新型コロナウイルス第6波の最中の開催となりましたが、感染症対策を徹底したうえで一部登壇者は会場参加、視聴者はオンライン参加のみとしてZoomウェビナーにより実施し、3日間を通して延221名の参加を得ました。また、パネル①では日西同時通訳、パネル⑤では日英同時通訳を活用し、国内のみに留まらず、アメリカ、中国、イギリス、メキシコ等、多くの国からの参加を得ました。

劉教授による総合司会・概要説明

(各パネルの概要・成果)

1月21日(金)

パネル①「漫画文化の比較・日本とメキシコ」

本パネルにおいては、メキシコ漫画文化「イストリエタ」を日本の漫画研究を取り込んだ形で行いました。このパネルは3つのセクションで構成され、最初のセクションでは、執筆者3名が、それぞれ執筆した章について報告しました。神戸芸術工科大の山本忠宏先生は、有名なプロレスのイストリエタ『サント』を中心にして、身体の表現について分析を行いました。続いて、開志専門職大学の雜賀忠宏先生は、メキシコのホラー・イストリエタがいかにトランスナショナルな想像力メキシコのローカルに馴染ませたかについて分析を行いました。このセクションの最後には、メキシコ国立人類学歴史大学のオオタ・オタニ・ゲン先生が、メキシコ代表的なキャラクター「メミーン・ピンギン」が初めて登場した漫画『Almas de Niño』と井上一雄の『バット君』との比較を行い、日本とメキシコの40年代半ばの社会の変動について考察しました。

次のセクションでは、発表された報告に対してメキシコから3名のコメンテーターが意見を述べました。メキシコ国立工科大学から、ドミンゲス・プリエト・オリビア先生が雑賀先生の報告についてコメントをしました。メキシコ国立人類学歴史学大学ENAHとメトロポリタナ自治大学から、キロス・カスティーヨ・ラウラ・イボネ先生が山本先生の報告についてコメントを行いました。最後に、メキシコ国立人類学歴史学大学とメキシコシティー自治大学のルイス・モリナ・フェルナンド先生が太田先生の報告についてコメントをしました。

最後のセクションでは、メキシコイストリエタ博物館館長のソト・ディアス・ルベン・エドアルド先生、北京鮮漫文化創意有限公司漫画家の浅野龍哉先生とコミック研究家のフェレル・エベラルド先生の3人を交えて、全体のディスカッションが行われました。

本パネルでは、日本とメキシコの漫画研究について、「表現論」と「社会論」の2つの側面から議論を行い、5年間継続してきたメキシコ漫画「イストリエタ」のプロジェクトが、どのように日本の漫画研究、また日本大衆文化研究に貢献してきたかを明らかにしたと言えます。

オンライン発表の様子

 

パネル②「時代劇映画の文化的芸術的価値の再発見 -衣裳と殺陣」

東映京都撮影所における時代劇「有形無形文化資料」調査における研究成果の一端を、3つのパネルに分けて発表しました。ここで言う有形とは「衣裳」、無形とは「殺陣」のことで、1つ目のパネルでは日本における時代劇の発展の在り方、またそれに伴って変化してきた衣裳や殺陣の歴史を網羅的に発表することで、京都太秦が「日本のハリウッド」と呼ばれる所以を明白にしました。

2つ目のパネルでは時代劇の「衣裳」、とくに重要な役割を担ってきた日本画家の甲斐荘楠音が手掛けた衣裳に焦点をあわせることで、日本の伝統文化である着物を、時代に合わせる形で「衣裳」として作り上げたその手法を明白にしました。

3つ目のパネルでは時代劇の「殺陣」、とくに時代劇に多大なる影響を与えた新国劇、そしてその後の東映京都のそれとを、それぞれの伝承者へのビデオ撮影による聞き取り調査を通して並べ比べることで、歌舞伎や舞踊などの影響関係も含め、継承の在り方を明白にしました。

この3つのパネルにより、アートから遠いと思われていた大衆娯楽の時代劇映画が、日本の伝統文化を反映した総合芸術であることが浮き彫りとなり、本プロジェクトの目的としている「新しい日本像と文化観の創出」に繋げることができました。

 

1月22日(土)

パネル③「大衆文化研究の資料学」

大衆文化研究プロジェクトでは、これまで、妖怪関係資料、絵入百科事典、絵はがきや鳥瞰図、浪曲S Pレコード、大衆雑誌、映画、漫画など、さまざまな大衆文化研究資源に関わる実践に取り組んできました。このパネルは、各報告者が、資料収集のコンセプトやその整理方法、資料の扱い方や見せ方、デジタル技術との関わりといった観点から、そうした実践について報告し、さらにコメントや討議を通して、これらの研究資源を相互に活用し、これからの日本大衆文化研究にどのように活かすことができるのかを考えるというものでした。

7人のパネラーの発表を受けて、関野樹(国際日本文化研究センター 教授)より「情報学」の観点からコメントをいただきました。近年注目を集めるデジタル・ヒューマニティーズの観点から、これらの大衆文化研究資源を、活用の幅の広い「データ」として活かすことの重要性が指摘され、その方策のひとつとして「いかにアーカイブを作るか」という観点からのアーキビストの育成などが提言されました。討議では、江上敏哲(国際日本文化研究センター図書館・資料利用係長)より、活用の幅を広げる方策のひとつとして、各研究資源の連携・活用を想定した「メタデータ (目録)」を整備する必要性が指摘されました。

これらの研究資源とそれに関わる取り組みは、「大衆文化」という網羅性の高い枠組みゆえ、一見したところ多種多様である一方で、これまで学術資料として注目の機会が少なかった資料、とくに取るに足らない「エフェメラ」として扱われるものを多く取り上げ、各時代の「無名の作者」(参照:大衆文化研究叢書第1巻『日本大衆文化史』KADOKAWA,2020年)が深く関わった、視覚性の高い資料を扱う点でゆるやかな共通性を帯びていました。発表を通して、各報告者が大衆文化資源と研究活動を往還し、それらの資源から「大衆」が共有した知や欲望を嗅ぎ取りつつ「データ」づくりへと格闘するさま、「データ」活用から新たな研究が生み出される様子を随所で感じることができました。パネル全体を通して、今後、これらの大衆文化研究資源がゆるやかにつながりつつ、一層活用される可能性を検討する必要性が共有されました。

パネル④『大衆文化研究叢書』書評パネル

大衆文化研究プロジェクトの集大成である「日文研大衆文化研究叢書」5巻の刊行は、これらがどのように読まれ、そこからどのような論点が抽出されるのかを含めてはじめて活動が完結します。

そこで、今回、日本の大衆文化に関心のある国内外の研究者に各巻の書評を依頼し、各巻の意義、そして今後考えるべき論点を提示して頂きました。その上で編者によるコメントを行いました。

各巻の書評とコメントを通じて、①文化を選択することによって生じる連続と非連続、研究対象と研究者の距離、メディアツールの利便性とともに生じる息苦しさなど、大衆文化の持つ「自由」さとそれに付随する「不自由」さ、②大衆文化の作者は誰かを改めて問い直す必要性、③大衆文化に隣接する文化との関係性など、今後取り組むべき論点が明らかになりました。

会場の様子

 

1月23日(日)

パネル⑤「「国際日本研究」コンソーシアム:「国際日本研究」の新展開―ヨーロッパとの対話から」

パネル⑤は、2020年12月に「国際日本研究」コンソーシアム主催で行った「ヨーロッパ日本研究国際学術交流会議」に由来します。同会議のラウンドテーブルの議論のなかで、佐藤=ロスベアグ・ナナ氏(ロンドン大学 SOAS)が対話の継続を提案したことを承け、翌年1月から毎月開催してきたヨーロッパWGでの議論を基盤として開催されたパネルです。同WGのメンバーは、佐藤=ロスベアグ・ナナ氏、アンドレアス・ニーハウス氏(ゲント大学)、エドアルド・ジェルリーニ氏(ヴェネツィア・カフォスカリ大学)、アンナ・アンドレーワ氏(ハイデルベルク大学→ゲント大学)というヨーロッパの研究者と、国際日本文化研究センターの荒木浩、楠綾子、安井眞奈美、ゴウランガ・チャラン・プラダンです。

本パネルでは、このWGの対話から焦点化された問題や争点を軸に、3セッションが行われ、最後にラウンドテーブルで議論を深めました。

第1セッションでは佐藤=ロスベアグ・ナナ氏が基調講演を行い、「国際日本研究」という視界を論じ、国際的な日本研究のハンドブックをめぐる可能性に言及しました。続けて第2セッションでは、アンドレアス・ニーハウス氏が、2015年度以来開催を計画してきたEAJSのゲント大会について、2020年の採択とCOVID-19による延期、2021年のオンライン開催、さらに2023年の次回大会を、あらためてゲントでハイブリッド開催する、という体験と経緯を分析し、今後の人文学の展望を論じました。第3セッションでは、エドアルド・ジェルリーニ氏が、「テクスト遺産」の概念をめぐって、スパンの長い、学際的・国際的考察を展開しました。またヨーロッパWGの安井眞奈美、アンナ・アンドレーワ氏、楠綾子、荒木浩がディスカッサントとして対論しました。ラウンドテーブルでは、イギリス・アメリカで長い研究・教育歴を持ち、現在は日文研で活動するタイモン・スクリーチがディスカッサントをつとめ、登壇者全員と議論を進めました。

「国際日本研究」のハンドブック作成については、パネル④で書評された日文研大衆文化研究叢書の成果をも受け、日文研の第4期事業の重要課題とすることが確認されました。ポストコロナに向けて、活発な討論と今後の定期的な活動・情報交換の場の提案、また問題把握の深化・進捗もなされ、フロアからもチャットで褒辞が寄せられました。

会場・オンライン併用による討論の様子

 

瀧井副所長による閉会の挨拶

 

【参加者数】

1月21日(金)79名(登壇者18名、一般参加者61名)

1月22日(土)91名(登壇者24名、一般参加者67名)

1月23日(日)50名(登壇者9名、一般参加者41名)

延220名

 

シンポジウム予稿集はこちら

 

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