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2017.10.28 日文研一般公開「大衆文化研究プロジェクト」関連催し等 レポート

2017.10.28 日文研一般公開「大衆文化研究プロジェクト」関連催し等 レポート

2017年10月28日、日文研一般公開「日文研の30年」が行われました。大衆文化研究プロジェクトは、次の催し・展示に参加しました。

【催し】
「歴史マンガをどう読むか?」
「昭和初期の演芸SPレコードと大衆文化」
「日本史の戦乱と民衆」
「「大正の広重」吉田初三郎とタイムトリップ!」
【展示等】
「大衆文化研究ポスター展示:日文研所蔵資料の紹介」
「「大正の広重」が描いた日本と外地―吉田初三郎の旅行案内図―」
所蔵資料の展示「図書館からみる日文研の30年」吉田初三郎鳥瞰図・SPレコード・漫画など
「共同研究紹介のパネル展示」

大衆文化研究プロジェクトの教授陣3名が参加した「歴史マンガをどう読むか?」という催しは講堂で行われ、多くの観客で賑わいました。大塚英志教授が司会を務め、各パネリストが一つの漫画を取り上げ、それぞれの専門の立場からの漫画の読み方を報告し、最後にディスカッションが行われました(荒木浩教授:手塚治虫「ブッダ」(1972年から1983年連載)、細川周平教授:手塚治虫「グリンゴ」(1987-89年)、吉村和真客員教授:楠勝平「おせん」(1966年連載)/エルナンデス・アルバロプロジェクト研究員:ografías selectas presenta「Zapata(サパタ)」(1959年))。歴史マンガにおける「顔」の捉え方、個人の内面と歴史という巨視的な物語との関係性、「私たち」と「私たちではない者」との対比をめぐる問題、マンガを歴史叙述の一資料として扱うことで開かれる可能性にまで議論が及びました。

古川綾子特任助教による「昭和初期の演芸SPレコードと大衆文化」という催しも、大盛況でした。 日文研所蔵の演芸レコードを聴き比べながら、レコードの発達の過程の紹介、その普及とともに人気を高めた浪曲、落語家・初代桂春団治や漫才の近代化に大きな影響を与えたしゃべくり漫才の漫才師「エンタツ・アチャコ」、夫婦漫才「ミスワカナ・玉松一郎」、戦争を主題にした漫才レコードなどが紹介されました。貴重な音源を楽しみつつ、明治期から昭和戦前期にかけてのヴァラエティーに富んだ大衆演芸の魅力が紹介されました。

石川肇助教による「「大正の広重」が描いた日本と外地―吉田初三郎の旅行案内図―」の講演も、盛況のうちに終了しました。大正期の鉄道設備の発展と共に広がった大観光ブーム。吉田初三郎(1884-1955)は、そのブームの最中、鮮やかな色彩による独特な旅行地図を多く描き、人気を博しました。京都や比叡山、赤穂から種差海岸まで、そして、「外地」であった朝鮮や満州にいたるまで、数々の鳥瞰図が紹介とともに、初三郎のお孫さんとの出会い、地図で描かれている場所を実際に旅した時の感想、初三郎の生い立ちや女性関係など、調査を進めるなかでのエピソードも紹介されました。また、晩年の作として、原爆投下とその後の惨状を描いた鳥瞰図「HIROSHIMA」(昭和24年)も紹介されました。初三郎の鳥瞰図には、しばしば地図内に番号が付され、裏にはその番号に対応する観光地の説明書きが印刷されており、現在の「るるぶ」のような旅の友として最適な観光旅行案内として機能したそうです。もう一つの側面として、これらの鳥瞰図には、鉄道路線から競馬場などのディテールにいたる当時の時代状況を伺い知ることのできるさまざまなスポットが描きこまれており、昭和という時代が「外地」とともに形成されていたことをも物語るとして、講演の締めくくりとされました。
(前川志織、エルナンデス・アルバロ)