近代チーム 2019年度共同研究会「音と聴覚の文化史」②レポート
近代チーム 2019年度共同研究会「音と聴覚の文化史」②レポート
「音と聴覚の文化史」班2019年度2回目の共同研究会は、4名による研究報告に加え、聾者が奏でる無音の音楽映画『LISTEN リッスン』の上映+談話会という、いつもに増して内容盛りだくさんの濃密な研究会となった。
口切り役は、今回のゲストスピーカーで美学・現代アートがご専門の伊藤亜紗氏(東京工業大学)。「吃音者の耳」と「ろう者の声」について、そこに介在する「聞く」と「話す」のあいだで何が起きているのか――、『目の見えない人は世界をどう見ているのか』や『どもる体』といった作品を著し、障がいをもつ人の身体感覚を研究する伊藤氏ならではの深いまなざしに基づいた話が展開された。
続く福田貴成氏(首都大学東京)は、19世紀の両耳聴実験からサウンド・アートに至るまでの変遷を丹念に追いながら、「音を見る」ことの系譜について語った。また、長門洋平氏(京都外国語大学)は、視聴覚メディアにおける「物語世界の音」、いわゆる「diegetic sound」にスポットをあて、様々な視聴覚資料を事例としてその真相に迫った。さらに渡辺裕氏(東京音楽大学)は、「耳の戦争」に語りのスポットが当てられる昭和期の音響工学者・田口泖三郎について、田口の捉えていた音・音楽の文脈をさらに広く深く読み解くことで真の田口像が見えることの可能性を提言した。いずれの報告に対しても、フロアから多くの質疑や意見が挙がり、白熱した議論が展開された。
そして、映画『リッスン』の上映も本研究会の熱気を後押しした。2017年に制作された本作は、無音であり、作品中の言語は手話。耳の聞こえない聾者(ろう者)たちが自ら「音楽」を奏でるアート・ドキュメンタリーだ。出演者は、自身の手、指、顔の表情から全身に至るまで、その肉体を余すことなく駆使しながら視覚的に「音楽」空間を創り出していく。手話言語を通じて日常的に熟達した彼らの身体表現は、「音楽とは?」という問いを深く研究会参加者に投げかけた。その問いを受けて、その後、中川克志氏(横浜国立大学)を司会に、異なる専門フィールドをもつスピーカー、さらにフロアも含めて非常に熱く意義深い座談会が展開された。
(光平有希・総合情報発信室 特任助教)
プログラム詳細
音と聴覚の文化史 2019年度第二回共同研究会
【日時・場所】 2019年10月26日13:00~、10月27日10:30~ 第5共同研究室
2019年10月26日(土曜)
伊藤亜紗(東京工業大学)「吃音者の耳とろう者の声:「聞く」と「話す」のあいだで」
福田貴成(首都大学東京)「「音を見る」ことの系譜:19世紀の両耳聴実験からサウンド・アートまで」
映画『リッスン』上映
2019年10月27日(日曜)
映画『リッスン』をめぐる談話会(司会 中川克志(横浜国立大学))
登壇者 伊藤亜紗ほか
長門洋平(京都外国語大学)「視聴覚メディアにおける「物語世界の音diegetic sound」とはなにか」
渡辺裕(東京音楽大学)「音響学者・田口泖三郎と「耳の戦争」」
次回プログラム、出版に向けた打ち合わせ