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近代チーム 2019年度共同研究会①レポート

近代チーム 2019年度共同研究会①レポート

5月18, 19日に日文研で開催された「音と聴覚の文化史」共同研究会1日目は、瀬野豪志氏(蘇音)、福永健一氏(関西大学)、Carolyn Stevens(Monash University)氏の3名による研究報告が行われた。まず、瀬野氏の発表では「イヤフォン」に焦点が当てられ、「聴力」「測定」「補聴器」という3つのキーワードに沿って、「イヤフォン」の歴史的変遷や、それを取り巻く社会的背景、さらに主体によって変動する「聴力」や「補聴器」に対する考え方の交錯性について論じられた。続く福永氏は、電気を使って音量を増大させる「拡声器」をテーマに据え、アメリカにおける「拡声器」の変遷を技術と文化という双方の歴史的側面から考察し、「拡声器」の文化的意義について言及した。音や声を補助する機器を媒体にして「聴覚」の文化史に言及した瀬野氏と福永氏に続き、Carolyn Stevens氏は、音そのものに焦点を当て、日本における公共の場で重層的に行われている音による統制について、多くの具体例を伴いつつ言及した。

研究会2日目は、中原ゆかり氏(愛媛大学)と齋藤桂氏(京都市立芸術大学)による研究報告が行われた。中原氏は、和太鼓奏者・小口大八に着目し、これまで体系的に行われてこなかった太鼓音楽(組太鼓、創作太鼓)の歴史を整理した上で、小口大八が尽力した御諏訪太鼓の復元や普及活動の様子を報告した。続く齋藤氏は、筝曲家・鈴木鼓村が1913年に著わしたエッセイ集『耳の趣味』に焦点を当て、そこに見られる「音」への傾倒を指摘し、具体的な記述をもとに鈴木鼓村の音楽観・「音」観に言及した。

その後の総合討論では、報告書出版に向けた話し合いの場が設けられたほか、2日間の報告を踏まえ、「聴覚」「聴くこと」「音」「音楽」の本質を問う議論などに、参加者一同が熱い意見を交わした。

 

なおプログラムは次のとおりである。

音と聴覚の文化史 2019年度第一回共同研究会

2019.05.18-19  第5共同研究室

 

2019年5月18日(土曜)

瀬野豪志(蘇音)「『イヤフォン』の文化史 〜『聴力』『測定』『補聴器』」

福永健一(関西大学)「拡声という声の営みの歴史:その技術史と文化史」

Carolyn Stevens(Monash University)“Sound control in Japan”

 

2019年5月19日(日曜)

中原ゆかり(愛媛大学)「御諏訪太鼓の研究(仮)」

斎藤桂(京都市立芸術大学)「箏曲家の聴覚エッセイ:鈴木鼓村『耳の趣味』(1913)を読む」

総合討論

「報告書出版に向けて」「音と音楽」

 

(光平有希・国際日本文化研究センター機関研究員)