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中日妖怪学術研究シンポジウム(中日妖怪学研究専題研討会)

中日妖怪学術研究シンポジウム(中日妖怪学研究専題研討会)

主催:中国民俗学会、清華大学歴史系、北京民俗研究院、国際日本文化研究センター
日時:2019年3月23日(土)8:40~18:00
場所:北京東嶽廟(東岳廟)
出席者:約30名

中国民俗学会の事務局がある、北京東嶽廟において日本と中国の妖怪に関する初めての学術シンポジウムが開催された。
シンポジウムは、葉涛(中国社会科学院宗教研究所研究員・中国民俗学会会長)による開幕の挨拶、劉暁峰(清華大学歴史系教授)による趣旨説明のあと、研究報告が行われた。
劉教授は、中国において「妖怪」研究は進んでいない現状を踏まえ、最先端の「妖怪」研究を蓄積している日本の研究報告を聞き意見交換することで、今後の中国での「妖怪」研究の発展の一助とするため今回のシンポジウムを企画したと説明した。
第1部は、日本の研究者による報告で、最初に小松和彦(国際日本文化研究センター所長)「日本妖怪文化再考」が代読された。
続けて、人文地理の観点から妖怪の出没する場所、何処からやってくるのかに関する佐々木高弘(京都先端科学大学教授)「日本における怪異・妖怪の循環ネットワーク」、日本における怪異の歴史的変遷を辿った木場貴俊(国際日本文化研究センタープロジェクト研究員)「日本近世の怪異認識をめぐって」、目の妖怪を事例にして、身体の視点から妖怪をどう解釈可能なのかを提示した安井眞奈美(国際日本文化研究センター教授)「妖怪と身体―目と瞳に注目して」、世界各国で行っている水難防止教育の普及と各地での水にまつわる怪異伝承の関係に関する永原順子(大阪大学助教)「怪異伝承と水難事故との関わり~日本およびASEAN諸国での調査をもとに~」があった。

第2部は、中国の研究者による報告が行われた。劉宗迪(北京語言大学教授)「鳥獣有霊―『山経』中的霊怪」は、中国の「妖怪」について『山海経』から考察したもので、『山海経』では動物であったこと、その出現が災害の前兆とされていたことなどを指摘した。陳連山(北京大学中文系教授)「従『山海経』中的妖怪、祥瑞談妖怪学研究」は、『山海経』研究史と日本の「妖怪」研究史を照らし合わせながら、これからの中国の「妖怪」研究の展望を示した。葉涛「「泰山治鬼説」流変挙要」は、泰山が人に害をなす「妖魔鬼怪」を退治する話に関して、仏教の影響や石敢当など民間信仰といった観点から検討した。黄景春(上海大学中文系教授)「従五通仙人到五路財神―五通神的神格転変研究」は、仏典に見られる五通仙人の歴史的な変遷を追うことで、中国では「妖怪」や現世利益的な神格に変わっていったことを指摘した。畢雪飛(浙江農林大学外国語学院教授)「異界之「界」何在?―中日異界想象比較研究」は、「異界」という分析概念が日本のものであることを前置きにして、中国で「異界」的なものについて、今後どのように考えるべきかを具体的な事例をあげながら検討を行った。

その後、フロアを含めた全体討論が行われた。そこでは、日本の研究に比して中国ではまだ図像を用いた研究は未発達であるなどの意見が出た。最後は、今回の学術シンポジウムが中国の「妖怪」研究の大いなる一歩となったこと、今後も各国の「妖怪」研究を促進させていくために協力しようという劉教授の総括で閉幕した。