2017.12.22 国際共同研究会「画像資料による帝国域内文化の再検討」レポート
近代班サブチーム画像班に関連する日文研共同研究会について報告する。
石川肇助教は、「鳥瞰図から見た帝国:「大正の広重」吉田初三郎が描いた内外地」という口頭発表を行った。吉田初三郎(1884-1955)は、大正期の鉄道設備の発展と共に広がった大観光ブームの最中、鮮やかな色彩による独特な旅行地図を多く描き、人気を博した。初三郎は、京都や比叡山、赤穂から種差海岸まで日本各地の俯瞰図を手掛けた。発表では、数々の鳥瞰図が紹介とともに、初三郎のお孫さんとの出会い、地図で描かれている場所を実際に旅した時の感想、初三郎の生い立ちや女性関係など、調査を進めるなかでのエピソードも紹介された。さらに、彼が「外地」であった朝鮮や満州にいたるまで鳥瞰図を手がけたことについて、競馬場をキーワードに、他の画像・映像資料を交えながら紹介された。これらの鳥瞰図は、昭和という時代が「外地」なしでは語りえないことを立体的に示す貴重な資料であることが指摘された。そして、旅行図から攻略図へとこの鳥瞰図の果たす役割が時代とともに変化する様についても指摘された。
劉建輝教授は、「「支那服」という画題の成立:近代日本人画家がいかに中国女性を描いたか」という口頭発表を行った。まず、近代日本における「支那趣味」を、大正期以降の文化人が、異文化としての中国のさまざまな事象に憧れ、恐れを抱き、魅了され、グロテスクにして華麗なイメージに練り上げた現象と位置付けたうえで、美術における「支那趣味」を確認することの重要性を指摘した。次に、中国女性服飾小史を踏まえたうえで、大正期以降のさまざまな画家による「支那趣味」に染められた作品群について紹介された。中国人留学生を多く教えた藤島武二による数々の古装の中国服による女性像など、日本人画家、特に洋画家によるチャイナドレスの女性像が数多く紹介された。これらの作品群からは、ツーリズムとの関連、女性表象に特化したオリエンタリズムとの関連を見出すことができるとした。質疑応答においても、チャイナドレスと着物の女性像における女性のエロティシズムの表象の仕方の比較、日本人画家によるヨーロッパとオリエントを重ねる眼差しの問題、さらに、テレサ・テンやジュディ・オングにいたるポピュラー化した中国服表象の問題にまで議論が及んだ。
そのほか、宋琦(日文研)「帝国の視野における熱河:避暑山荘および外八廟を現場として」という口頭発表では、熱河の清時代から中華人民共和国時代までの歴史を丁寧にたどりながら、熱河という場に託された意味が、特に満州国成立前後の時期に注目し、豊富な画像資料をもとに検証された。
(前川志織)