シンポジウムレポート 2017.7.24-25 「近世期絵入百科事典データベース公開記念-書物にみる絵とことばの350年」
国際シンポジウム開催報告
「近世期絵入百科事典データベース公開記念-書物にみる絵とことばの350年」
代表者: 石上阿希 特任助教
主催:国際日本文化研究センター
後援:機関拠点型基幹研究プロジェクト「大衆文化の通時的・国際的研究による新しい日本像の創出」、広領域連携型基幹研究プロジェクト「異分野融合による「総合書物学」の構築 日文研ユニット「キリシタン文学の継承:宣教師の日本語文学」
共催:科研費若手研究(B)「18世紀上方・江戸における出版と都市文化の関連性-西川祐信を中心として-」
開催期間:平成 29年 7月 24・25日(月・火)
開催場所:国際日本文化研究センター 第一共同研究
成果:
本シンポジウムは、国際日本文化研究センターで構築している「近世期絵入百科事典データベース」の公開を記念して、江戸初期から近代に至るまで書物を介した知識・情報の伝播と展開について文学、美術、意匠、教育など様々な視点から考察を行うことを目的としたものである。
パネル1「近世期における絵入百科事典的書物」では、1666年頃刊行された『訓蒙図彙』を中心に、森羅万象の事物を網羅的に編纂した書物について発表を行った。勝又基氏は『訓蒙図彙』を浪人文学、豪華本、辞書、日本風俗画といった多様な視点から分析した。マティアス・ハイエク氏は『訓蒙図彙』が「モノ」にこだわり、実物を見てその形状を写す方針をとっていたのに対し、『和漢三才図会』は名に見えないものも図にしていたことを指摘した。また、加茂瑞穂氏は『訓蒙図彙』の形式を模倣した「訓蒙図彙もの」書物の一例として『武具訓蒙図彙』を取り上げ、書物と工芸、装飾品との関連を報告した。
パネル2「子どもと学び」では、『訓蒙図彙』がそもそも幼童向けの啓蒙的書物として作られた点に着目した。辻本雅史氏は、貝原益軒の和文著作は実践・実用書として刊行され、大衆から支持を得たこと、それらの書物から見えてくるものは身体から心に向かう益軒の教育論であると指摘した。また、鈴木俊幸氏は「子ども向け」書物の原本を回覧しながら、絵を読むためのリテラシーが必要だった点を指摘し、「子ども向け」でありながら子どもだけに向けて書物が作られていたとはいえない実態を確認した。
パネル3 「異国と日本-伝達経路としての書物」では、書物という経路によって異国から日本、あるいは日本から異国へ情報、教養が伝達していく事例を確認した。松田清氏は、舶載蘭書の挿絵・図版利用の具体例を提示しながら、蘭学勃興期から衰退期にかけて日本人の蘭書受容の段階を示した。また、タイモン・スクリーチ氏は、蘭医学書-特に『解体新書』の挿絵とテキストに着目し、医学的需要だけではなく、哲学的理解の広がりもあったことを指摘した。陳捷氏は、文字のみでの理解に加えて視覚的理解を促すために図解書物が作られていったことを『詩経』と日本人によって作られた「詩経図」を取り上げてその変容を分析した。また、陳力衛氏は、バタヴィアで宣教活動をしていたイギリス人宣教師メドハーストが、『英和和英語彙』を編纂するにあたって、『増補頭書訓蒙図彙』を参考にしていたことやその日本語理解に本書の図や漢字表記が大きく貢献していたことを報告した。
パネル4「図と語の収集・分類」では、伝統や前時代の知識が、書物やデータベースによって継承されていく様相を考察し、「近世期絵入百科事典データベース」が今後どのような役割を果たせるのか、問題提起を行った。定村来人氏は、河鍋暁斎が明治期に欧米人という新規読者に向けて、英語と日本語が混在する新しい画譜のスタイルを確立し、伝統と現代をつなげていったことを報告した。伊藤慎吾氏は、日文研の妖怪データベースが現代の創作活動にどのように利用されているのか、ライトノベルを中心に事例を紹介し、研究支援だけではないデータベース利用の実績と可能性について指摘した。石上阿希は、古典籍のオープンデータが進む中で多機関の資料を検索出来る「近世期絵入百科事典データベース」の構想と目的について、実際のデータベースを基に報告した。
各パネルにおいて会場の参加者を交えて多岐にわたる議論が行われ、『甲子夜話』の肉筆画のデジタルアーカイブ化についての提言など「近世期絵入百科事典データベース」の今後の展望を考える上で有意義な議論となった。
参加者数:国内研究者61 名、国外研究者5 名、計66 名