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『日本大衆文化史』連続模擬授業 実施報告(2021年4月)

『日本大衆文化史』連続模擬授業 実施報告(2021年4月)

大衆文化研究プロジェクトは、その一環である教科書制作プロジェクトを発足以来、北京外国語大学とキックオフミーティングや模擬授業などの連携を行なってきました。この度、教科書を『日本大衆文化史』(KADOKAWA、2020年9月)として無事刊行し、新たな教育プログラムの開発に向けてこの教科書を活用し、北京外国語大学・秦剛教授と人民大学・徐園准教授のご協力のもと、『日本大衆文化史』連続模擬授業を開催いたしました。

『日本大衆文化史』は、古代の神話から現代の「初音ミク」まで、大衆を無名の作者と位置付け、ジャンルを横断して通史でたどることで、時代を越えて、創造・継承・更新される大衆文化の歴史を見通そうとするものです。模擬授業では、「大衆文化のあり方」「群れとしての作者」「大衆文化の場―メディア―プラットフォーム」という3点を意識し、各授業において全体の流れを見通しながら、中国と日本における「今」の文化状況にもつながるような内容で講義を行いました。

オンラインで中国の大学の教室と日本の講師たちをつなぎ、各回いずれも50名ほどで授業が行われました。事前に配布した『日本大衆文化史』プルーフ版と授業用スライドの配布資料をもとに講義が進められ、盛況のうちに全4回の講義を終えることができました。アンケートも実施し、数々の鋭い意見や熱心な感想をいただきました。これについては、今後の教育プログラムの改善に活かしたいと考えています。

 

(各回の概要)

第1回では、日文研からのあいさつ、秦剛先生によるあいさつと概要説明ののち、大塚英志先生による講義がはじまりました。その内容は、『日本大衆文化史』の序論にあたる、講義全体の枠組みを提示するというものでした。「日本文化」という思い込みからの離脱という視点を導入とし、「大衆文化という現象をどうとらえるか」という主題を説明したあと、そうした現象をとらえるひとつの図式としての「世界」「趣向」、メディアミックスの考え方がわかりやすく紹介されました。日本のアニメーションに関心が高い学生が多く、「世界」と「趣向」という図式を理解した上で、「「動態」としての大衆文化の現在・未来についての展望についてどう考えたらよいか」といった鋭い質問もあり、白熱の講義となりました。

第2回は、伊藤慎吾先生による『日本大衆文化史』2〜3章にあたる、中世期から近世期の芸能を中心とした講義でした。中国由来の鍾馗のキャラクターと厄除けとの関わりを糸口に、中国の『三国志』の日本での受容、『平家物語』の足利義経といった日本の古典キャラクターについて概説されました。たとえば、江戸時代につくられ子どもに楽しまれたおもちゃ絵などの印刷物にもキャラクターが描かれましたが、庶民がこれらを手にするとき、そのキャラクターの背後にある物語も含めて楽しまれたことが強調されました。その後、語りの芸で身を立てた芸能者による「声とパフォーマンスの時代」について、図版をまじえてわかりやすく説明され、さらに、歌舞伎や寄席など近現代の「場」において、キャラクターや物語がいかに継承されたかについての解説がありました。

第3回は、佐野明子先生による『日本大衆文化史』4〜5章にあたるアニメーションを中心とした、近代の大衆文化史をたどる講義でした。近年の中国におけるアニメを通しての日中交流を導入とし、「太平記」の物語が講談から映画・アニメへとメディアを移動しつつ受け継がれるという伝統⽂化から近現代の⼤衆⽂化への「連続性」が確認されました。一方で、近代における伝統文化との「切断」の例として、日本におけるアメリカのアニメの人気ぶりの例などが紹介されました。また、パテーベビー映写機(1923-)の輸入などを背景にした玩具映画(家庭用に販売されたフィルム)の流行などを例に、創作するアマチュアが戦間期に台頭したことが紹介されました。授業の後半は、先生の研究テーマでもある戦時下・戦後のアニメーションについて、『桃太郎海の神兵』(瀬尾光世、1945)を視聴しながらの画面分析、さらに、戦後の手塚治虫による「西遊記」のまんが・アニメと中国初のアニメーション『鉄扇公主』(1941)との影響関係など、興味深い説明の数々がなされました。

第4回は、アルバロ・エルナンデス研究員による『日本大衆文化史』6〜7章にあたるテレビ・インターネットを中心とした、戦後から現代における大衆文化史の講義でした。「初音ミク」のボーカロイドの事例を導入とし、大衆文化の「ファン」と「参加型文化」をどうとらえるかについて説明がされました。その後、戦後のテレビアニメを例にした、広告が主導するメディアミックスのありよう、思想家・鶴見俊輔による漫画『サザエさん』の解読を例にして、漫画と社会と大衆の関係についてどう捉えるかが説明されました。最後に、現代の新たなメディア形態であるインターネット社会における「プラットフォーム」を通して形成される大衆文化について解説されました。プラットフォーム上の「無償労働」という考え方などが紹介され、その政治的支配のあり方が指摘されました。会場の学生からは、「初音ミク」をめぐる著作権の争いがあったのか、また「参加型文化」の将来や文化の継承と変遷をめぐる質問がありました。

 

プログラム詳細

  • 主催:北京外国語大学、人民大学、国際日本文化研究センター・大衆文化研究プロジェクト
  • 開催方法:オンライン方式
  • 参加者:北京外国語大学・人民大学の大学生、大学院生
  • プログラム *1講義100分。いずれも10:20-12:00(中国時間9:20-11:00)。

第1回 4/3(土)

担当:大塚英志・日文研教授。「日本大衆文化史」のプレ講義

第2回  4/10(土)

担当:伊藤慎吾・國學院大學栃木短期大学准教授。2〜3章(芸能を中心に。近代まで含む)

第3回 4/17(土)

担当:佐野明子・同志社大学准教授、日文研客員准教授。4〜5章(映像を中心に。3章の印刷文化含む)

第4回 4/24(土)

担当:アルバロ・エルナンデス・日文研プロジェクト研究員。6〜7章(テレビ・インターネットを中心に)

 

  • 授業用教材:『日本大衆文化史』プルーフ版を使用。
  • 担当

・日本(事務局)国際日本文化研究センター・プロジェクト推進室

・中国:北京外国語大学・秦剛教授、人民大学・徐園准教授