【レポート】2018年9月22・23日「音響と聴覚の文化史」第3回共同研究会
今回の「音響と聴覚の文化史」共同研究会では、2日にわたって研究報告や書評会のほか、今後の展開や具体的な開催予定に関する話し合いが行われた。
1日目は、昼間賢氏(立教大学)による報告「ベトナムの一弦琴〈ダンバウ〉の音響 〈一つの音〉とは何か」で幕を開けた。まず、昼間氏は実際に楽器を手にしつつ、様々な演奏音源を用いながら、ベトナムの民俗楽器ダンバウの構造や音色、ベトナムにおけるダンバウ演奏の歴史的変遷などを詳細に報告した。その上で、単音楽器であるダンバウの音響に着目し、特質である〈一つの音〉の位置づけを図った。報告中、珍しいダンバウを目の前に参加者からは様々な質問が投げかけられ、活発な意見交換が行われた。
同日2つ目は、音響文化論を専門とする中川克志氏(横浜国立大学)により、「1950年代から90年代における雑誌『美術手帖』における〈音/音楽〉の諸相」というタイトルで報告が行われた。同報告で中川氏はまず、雑誌『美術手帖』における音・音楽に注目する記事を詳細に調査し、整理の過程で明らかとなった1950年代から90年代までの、それぞれの年代に見られる特徴的な記事や動向について、多彩な具体例を基に紹介した。その上で、『美術手帖』における音楽紹介の変遷過程や、美術における音/音楽の捉え方について、総体的な分析結果を報告した。
1日目の最後は、書評会「デヴィッド・グッドマン著『ラジオが夢見た市民社会』(岩波書店)」であった。訳者である長崎励朗氏(桃山学院大学)を囲んで、福永健一氏(関西大学大学院社会学研究科・博士後期課程)、阿部万里江氏(ボストン大学)、細川周平氏(国際日本文化研究センター)、光平有希(国際日本文化研究センター)がそれぞれコメントを寄せた。1930年代アメリカにおいて、放送国家的規制の下にあったラジオ放送とデモクラシーの関係を鋭く焦点化した同書について、コメンテーター以外の参加者からも、各専門分野から切り込んだ多数の意見や感想が出され、非常に活気のある密度の濃い書評会となった。
続く2日目は、美学・聴覚文化論を専門とする金子智太郎氏により(東京藝術大学)、「日本美術サウンドアーカイヴの活動、ねらい、今後」というタイトルで報告が行われた。「日本美術サウンドアーカイヴ」とは、美術館や画廊、アトリエや公共空間で種々の音を鳴り響かせてきた美術家たちによる、過去の音へのアクセスを試みるプロジェクトである。同プロジェクトの中で金子氏は、作家や関係者へのインタビュー、文献調査、作家が所有する録音などを通じて、過去の作品にまつわる情報を収集・整理し、展覧会、イベント、レコードなどのかたちで発表するという活動を行っており、このような活動を通じて、日本美術における音の意義を検討し、その可能性を開くための基盤を作る試みをしている。本報告では、「日本美術サウンドアーカイヴ」の活動内容や今後の展望などについて、具体的な資料や実例をもとに興味深い報告が展開された。
(光平有希・国際日本文化研究センター機関研究員)