2018.06.07 大衆文化現代班資料分科会 (第2回牧野守映画史資料保存研究会)の報告
この度、第2回牧野守映画史資料保存研究会が東京・国分寺で開催された。
この研究会は、映画や映像の製作者、映画の在野研究者である牧野守氏が長年、行ってきた映画関係者インタビューテープ100本あまりのデジタル化、文字化、校閲、および、コロンビア大に委託された映画史資料、いわゆる牧野コレクションのうち、日本に残る資料群を分析や整理し、広く共有する準備をすることを目的として任意の研究会として発足した。メンバーの一部は大衆文化プロジェクト現代班資料分科会と重なるが、大衆文化プロエクトの枠を越えて、日本・北米・中国・スペインからも毎回、私費での参加がある。
今回の研究会の内容は、牧野氏のレクチャーに加え、司会の大塚英志と、牧野門下の肥田野茂、他メンバーの議論と、メンバーによるインタビュー分析の進行状況報告であった。
まず、牧野氏が監督、構成とシナリオを担当したドキュメンタリー作品『「谷戸文化村周辺と青春像」– 一九二〇年代の中野–』を上映、同作のためになされた、漫画家の田河水泡へのインタビューに関する質疑と議論で今回の研究会は始まった。大正新興美術運動時代の高見沢路直(後の田河水泡)が文化人村に構えた借家の隣家に無名時代の小林秀雄が住み、その妹と結婚、それが、劇作家となる高見沢潤子であり、小林の同棲相手の女優・長谷川泰子、小林の友人・中原中也を含む交友関係はよく知られるが、改めて田河の肉声を介して聞くことで、領域ごとに分断された研究では見えてこない彼らの「近さ」を再認識させた。
次に牧野氏から議論の材用に提供された映画雑誌『シネマ69』『シネマ70』をもとに、特に「時代の表現」となる映画、そして監督や作者性について、様々な側面から議論された。例えば、時代の制約、規制、複雑で様々な社会運動のギャップの中で映画や作品の「作家」とはどういうものか、または時代の変遷の中で表現をする「作家」自身による時代の理解や受け止め方などについても議論された。牧野氏はその中で映画研究に限らずメディア研究が「前衛」の視点、立ち位置からなされることを指摘、「後衛の視点」を自らの方法として示したことは参加者に深い感銘を与えた。これは現在進行中の「教科書プロジェクト」に於いても重要な示唆になる。「大衆文化史」は後衛としての大衆の視点から検証される必要があるだろう。
テープ資料については、王楽が満映のスクリプター・岸美子インタビュー15本、近藤和都・森田典子が、三木茂研究会の座談の録音・亀井文夫インタビュー、鈴木洋仁が波多野完治インタビューについての報告を行った。
また、牧野氏によってカード化されたが、未刊行の「論文別・昭和前期の映画文献」の索引カード(図1)の電子データ化、書籍化について、今後、何らかの予算を獲得し、公開できないか、という提案が大塚からあった。このカードはアーロン・ジェローらによってその存在が指摘されてきたが、長く放置されていたものである。(大塚英志)