レポート:日本大衆文化シリーズ講座in北京② 9/27
レポート:日本大衆文化シリーズ講座in北京② 9/27
日本大衆文化シリーズ講座in北京第2回が、北京外国語大学日本学研究センターで行われた。本日も、講義室は若い学生でほぼ満席となった。
郭連友・北京外国語大学日本学研究センター所長の紹介で、主催の高橋耕一郎・国際交流基金北京日本文化センター所長と小松和彦・日文研所長のあいさつがあった。その後、張龍妹・北京外国語大学日本学研究センター教授の司会により荒木浩教授の講義、郭所長の司会により小松所長の講義が行われ、各講義のあとには、学生からの活発な質問が寄せられた。
小松和彦「幕末の江戸の大衆文化を覗く」
要旨:
嘉永6年(1853)、幕末の幕開けを告げる、マシュー・ペリーが率いるアメリカ合衆国海軍の蒸気船2隻を含む艦船4隻(いわゆる「黒船」)が来航し、「泰平の眠りをさます上喜撰たつた四杯で 夜も眠れず」と狂歌で囃されたように、江戸の町は大騒動となった。翌年再来航したペリーと幕府の間に日米和親条約が締結され、日本の鎖国が終わった。そんななか、安政2年(1855)10月2日、江戸の町を大地震が襲い、大きな被害がもたらされた。この講義では、そのような時代に描かれた妖怪をテーマした浮世絵を手がかりに、たった一枚の絵であっても、その内容を読み解くことがいかに難しいかを学ぶとともに、その解読を通じて浮かび上がってくる江戸の庶民文化の一端を覗いてみることにしたい。
報告:
歌川国芳《安達原一ツ家之図》(1856年、日文研所蔵)について、能、民間伝承、浄瑠璃、さらには、当時人気を博した「生人形見世物興行」やそれを描いた浮世絵といった資料を丹念に紐解くことで、絵のなかの一つ一つのモチーフの謎を読み解いていく、というスリリングな謎解きをみるような講義であった。一つの絵にフォーカスするだけで、浮世絵というメディアがもつ多彩な役割、その時代の大衆文化のありようを感じることができることが示された。
荒木浩「投企する古典性―ブッダ・『源氏物語』・聖徳太子から考える―」
要旨:
日本古典文学は、先行する国内外の作品や叙述の型などを受け止め咀嚼し、新しい世界観やキャノン、あるいはキャラクターを生み出して、文化の重層性を形成してきた。本講座では、この構造の大枠を、投影や投げ出しの意味を持つ「投企(project)」という語で逆転的に捉え、日本の古典文学が、いかにしてその作品性や世界観を投企して展開してきたか、という視点で日本古代・中世文学を論じたい。具体的には『源氏物語』の形成に投影されたブッダの伝記のイメージについて独自の分析を行い、また光源氏のモデルともなった聖徳太子というキャラクターが担った、インド・中国文化への投企性について考察するなど、議論を展開し、「投企する古典性」という概念を検討したい。
報告:
「投企(project)」とは、例えるならフランス映画『月世界旅行』(1902年、ジョルジュ・メリエス)における月の描写のように古典と現代が衝突するようなものという刺激的な冒頭から始まった講義では、光源氏と仏陀、さらに聖徳太子との共通点を探ることで、時間と場所を超えた躍動感のある「身投げ」としての読み解き方が説明された。推論から議論を展開し、改めて歴史を検証するという手法により、縦割りではない、場所と時空を緩やかに超えて繋がる古典理解の仕方が示された。
(報告:前川志織)