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近代班 H29年度共同研究会⑤レポート

近代班 H29年度共同研究会⑤レポート
研究代表者 細川周平
開催期間 平成30年2月24, 25日
開催場所 国際日本文化研究センター  第5共同研究室

第4回目となる、今回の「音響と聴覚の文化史」共同研究会では、研究報告のほか、今後の展開や具体的な開催予定に関する話し合いが行われた。

 

まず、報告1で葛西周氏(東京藝術大学)は、「音楽実践の場としての温泉」というタイトルで報告を行った。葛西氏による今回の研究では、湯治が庶民に普及した、江戸以降の日本の温泉地(特に温泉宿泊施設)の事例を対象として、年齢も出身も趣味も異なる温泉地の観光客に対し、共通の娯楽を提供するという点に着目するという。これらの対象に対し、音楽実践の多様な事例から各ジャンルの機能や位置づけの類似・相違を考察、「音楽観光学」的アプローチの可能性を検討、他地域の事例と比較分析を行うという最終目的のもと、今回は、その過程報告が行われた。同報告では、先行研究や日本における「温泉観光」の略史を踏まえつつ、温泉実践の場の種類と機能、さらにはパフォーマー育成の場としての温泉事例の紹介が行われた。質疑応答では、国内・国外に至る広範囲の地域、そして時間軸の横断的・縦断的拡がりがあるテーマであるだけに、今後の研究発展への期待が示されると共に、様々な具体例を挙げての白熱した議論が展開された。

 

報告2では、細馬宏通氏(滋賀県立大学)により、「動作の手がかりとしての歌と掛け声」というタイトルで報告が行われた。同研究は、野沢温泉村道祖神祭りにおける「里曳き」と「胴突き」という共同作業を対象に、共同作業における指揮者の掛け声と参加者の身体動作との関連性を探るというものである。「里曳き」について細馬氏は、曳きのタイミングの変動に関して、発声と動作のタイミングの揺らぎに基づいて明らかにした上で、その変動が現場では容認されながらも、何年か先に改めて共同体の中で考え直されるという過程を提示した。また、「胴突き」に関しては、作業を行う際に用いられる「胴突唄」というという作業歌を対象として、主として共同作業のタイミングを調整する機能としてのリズムに着目した考察を展開した。これらの考察の結果、歌の聴取は、参加者の次の動作の早期や、繰り返しによるタイミングの投射、行動の時間軸を設定など様々な点に影響を及ぼすという。そして、それら運動調整の発展的仮説として、同報告の最後には、歌×掛け声×オノマトペの相互関係にも言及がおよび、多面的かつ深い考察示唆が展開された。

 

報告3のCarolyn S. Stevens氏(Monash University, Melbourne)による「日本におけるビートルズ」では、昨年末に出版された同氏の著書The Beatles in Japan (Media, Culture and Social Change in Asia Series)を軸として、とりわけ1960年代の日本公演とその前後の海外公演を対象に、ビートルズをめぐる多彩なエピソードを交えつつ、多角的かつ興味深い考察が展開された。同報告では、重要な視点としてビートルズの日本公演を国際的な歴史の枠組みの中で捉え、そこから1960年代の日本におけるテンションをうかがうという試みが行われた。その上でStevens氏からは、ビートルズの日本公演は、戦後の日本文化史と世界が日本を見る目のブレーキングポイントとなったという示唆が提示された。様々な世代が在籍する「音響と聴覚の文化史」共同研究会において、日本におけるビートルズの活動や捉えられ方を論じた同報告内容は非常に刺激的なものであり、質疑応答の時間も、ビートルズの活動をリアルタイムで見ていた当事者、あるいはビートルズ伝説を伝え聞いているその後の世代から、多くの質問や意見が飛び交い議論が深まっていた。

 

報告4では、まず細川周平氏(国際日本文化研究センター)・山内文登氏(国立台湾大学音楽学研究所)により、2017年11月27~28日に台湾で開催された「『東アジアのレコード産業』研究会」の内容や、同会発足の背景についての報告が行われた。その後、山内氏から「方法としての音―アーカイブの近代と植民地録音」というタイトルで、帝国日本の植民地録音とそれに関するアーカイブの現状について詳細な報告が行われた。同報告では、前提として、音をめぐるフィールド、アーカイブ、スタジオの概念構造、学問的背景、方法論などを踏まえつつ、第一部では、「西洋近代と音のアーカイブ化」と題し、音をめぐる近代知の言説編制と複製技術、声の資本主義・帝国主義・民族主義・大衆文化について深い議論が展開された。続く第二部では「帝国日本の植民地録音と不発の音のアーカイブ」として、帝国日本のレコード博物館フィールド録音の状況や帝国日本の植民地レコード産業とスタジオ録音の様相が提示され、最後に音のアーカイブ化に関する現状についての報告が行われた。同報告は、声の歴史を聴きとり、そして再現芸術として、通常の資料アーカイブとは異なる「音楽アーカイブ」を長年考察してきた山内氏による、重要かつ大きな示唆を含む内容であった。

(光平有希)

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